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名前

「身代わり伯爵」の二次です。


リヒャルトとミレーユで書きましたが、糖度は高くありません。

なんだか、よく言えば「初心に戻る」ですが悪く言えば「振り出しに戻る」といった感じです。

読んでくださる方は〈続きを読む〉からどうぞ


ある日宮殿に仔犬が来た。その犬は長めの金の毛で、よく躾けられた大人しい犬だった。
勉強ばかりの王太子に遊び相手を、という名目で献上された。本人にとっては、大人達の思惑や下心などに関心はなかった。
ただ嬉しかった。
大きな目と忙しなく動く金色の尾。そこには何の打算も何もない。
家族以外、自分に向けられるのは「王太子エセルバート」としての期待だった。だから、初めて犬の瞳を見たときは驚いてしまった。
王太子という役割が嫌だとか面倒だとか感じた事はなかったが、その犬の無邪気さを楽しいと感じたのは確かだった。
「いつも一緒」とまではいかなかったが、時間があれば、犬と戯れた。湖の近くを散歩し、妹と手触りのいい毛を撫でて遊んだ。
いつだって、犬は無邪気で、自分はそれに癒された。
しかし、犬は突然この世を去った。
午後の聴講中のことだったらしい。「らしい」というのは、話をきいたのが聴講後しばらくしてからだったからだ。
寿命だったのか、ここ最近調子が悪かったから、話を聞いた時は形通りの素っ気ない言葉しか出てこなかった。
けれど、いつも犬がいた部屋の扉を開けた時、犬のベッドに触れた時、必ずそこにあった反応が、瞳が、温もりが・・・一つの存在だけがなかった。
ただ無い。欠落している。
たったそれだけなのに、喪失感が彼を包み込んで、抜け出せない。
いや、むしろ犬がいなくなってしまったのに、なぜ時間がいつものように過ぎて行くのだろう。
犬がいた昨日とおなじように。
自分にはそれが不思議で、けれどその原因を探るほど、その時の自分の前には優先すべきたくさんの課題があった。
あの時の感情になんと名前を付ければよかったのだろう。


************


「殿下。如何なさいましたか?」
「え?……あぁ、いや何もない。」
ぼんやりとしていたリヒャルトにジャックが声をかける。
「さては殿下、ミシェルの事を考えていましたな?いけませんぞ。政務を疎かにしては」
ジャックは諌める言葉とは裏腹に、顔はニヤニヤと笑っている。
「いや、別に…」
推測の間違いを正そうとするが、部屋に入ってきたルドヴィックが発言する。
「全くです。政務の時くらいあの方の事を考えないで頂きたいものです。」
新しい書類を持ってきたルドヴィックは、ジャックとは違い言葉通りの表情を浮かべていた。
リヒャルトがどこから訂正していくべきか考えている間にも、ジャックとルドヴィックは間違った推測を前提にした会話は進んでいく。

実際にミレーユを考えていたせいで政務を疎かにしてしまったことはない。
けれどミレーユとの婚約を認めたくないルドヴィックと、冷やかしたいジャックは次第に、お互いの意見が擦れ違い、本人そっちのけで喧嘩し始めてしまった。
ジャックとルドヴィックの様子を眺めながら、リヒャルトはなぜ犬を飼っていた頃の事を思い出したのか考えていた。以前、ルドヴィックにミレーユがその犬に似ていると指摘されたからでは、絶対にないだろう。そもそも、犬とミレーユを比べる時点でおかしい。

リヒャルトは溜息をつきながら時計を見ると、午後2時15分だった。
(3時になればミレーユも休憩になるな。それまでに新しい仕事を処理してしまおう。)
リヒャルトは頭を切り替えて、ルドヴィックが持ってきた新しい書類に手を伸ばした。



ようやくリヒャルトの仕事にもジャックとルドヴィックの口論にも一段落が付いたところで、休憩となった。
午後3時20分。
少し遅くなってしまったが、今ならミレーユは午後の休憩を取っているところだろう。
ミレーユの私室に足取り軽く向かう途中、中庭に面した回廊を歩いていると、ミレーユの声が聞こえてきた。
視線を中庭に移すと、回廊に背を向けるようにしてベンチにミレーユとロジオンが座っていた。
「ロジオン。そういえば、リヒャルトって犬は好き?」
「はい。殿下は昔、献上された犬を大変可愛がっていらっしゃいました。」
「そうなの?リヒャルトって他には何が好きなの?」
「そういうことは、ロジオンじゃなくて俺に聞いてください。」
様子を伺っていたリヒャルトは、ミレーユに背後から話しかける。
驚いた様子でミレーユが振り向く。
「リヒャルト!もう仕事はいいの?」
「今一段落着いたところです。また戻らないといけないのですが・・。」
「じゃ、今は休憩中?」
「えぇ。あなたに会いに行こうとしていたんですが、何をしていたんですか?」
「あのね、今日犬を拾ったのよ。どこかから入ってきちゃったみたいで。」
ミレーユが指差しながら話す。
その方向を見ると植木の下で小さなボールと遊んでいる仔犬がいた。
ミレーユが仔犬に声をかけると、ボールをくわえたまま、こちらに駆けてくる。仔犬を抱き上げてリヒャルトの方に笑いかけるミレーユの笑顔がまぶしくて、リヒャルトは目を細める。
すっかり暖かくなった風に、少し長くなったミレーユの髪が踊る。
ミレーユの金髪が光を吸い込んできらきら輝くのを見て、リヒャルトは急に昔飼っていた犬の事を思い出した。
そういえば、あの犬もきれいな金の毛と無邪気な瞳をしていた。
「ちょっとだけ、似ているかもしれないな・・・。」
「へ?何?」
リヒャルトの独り言に、ミレーユは小首をかしげながら尋ねる。
「いいえ。何でもないです。」
ミレーユに笑い返しながら答える。
「それより、その犬の名前はなんて言うんですか?」
「まだ、決まってないのよ。そうだ!リヒャルトがつけてあげてくれない?」
「俺でいいんですか?」
「リヒャルトがいいの!」
ミレーユに頷いて、リヒャルトは犬の名前候補を挙げていく。
今となっては昔飼っていた犬のことは、鮮明には思い出せない。
それは悲しい記憶も眠っているからという理由もあるだろう。
けれど、今となりにある笑顔がまぶしくて、ミレーユの快活さに目が離せなくて、過去の事に思いを馳せている暇も無い。


(過去の悲しい気持よりも、今ある幸せな感情に彼女とひとつ一つに名前を付けていこう・・・。)




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comments

リヒャルトの思い出話にホロリ(泣)。

こんばんは。
新作『名前』を拝読させて頂きました。

コメントタイトルにも書きましたが、
リヒャルトの幼き日の思い出話にしんみりときました…(泣)。

ルドヴィックが言うには同じ頃リスも飼っていたそうですが、
小動物を飼うような普通の少年だったのですよね。
まあ、あかつきさまの作中にもありますように、
大人達による情操教育の一環だったのかもしれませんが・・・。

しかし、リヒャルト視点だと何故か話の展開が暗くなりませんか(笑)?
ミレーユはまさに光です!(色々な意味で)

「初心に戻る」を感じた、落ち着いたお話をありがとうございました!
勉強になりました!

sakuraさま

こんばんは。

読んでくださって、コメントくださって、ありがとうございます。

最初の思い出に精魂詰め込みすぎました・・・。
そうなんです!どこにでもいる、でもちょっと感情バリエーションが少ない少年を書きたかったんです!
あんな駄文から読み取ってくださってありがとうございます!

>しかし、リヒャルト視点だと何故か話の展開が暗くなりませんか(笑)?
>ミレーユはまさに光です!(色々な意味で)

なります!
それでなくとも、全体的に私の根暗さが反映されてるのに・・・。
リヒャルトが絡むと余計に!
(どうしてくれよう・・・この鬱々大将がっ!!)

本当に、読んでくださってありがとうございました!

あっはっは

>しかし、リヒャルト視点だと何故か話の展開が暗くなりませんか
>(どうしてくれよう・・・この鬱々大将がっ!!)

他人様同士のコメントのやりとりに申し訳ありません。
非常に笑わせて頂きました。
わたしも以前からそう思っております。
視点を切り替えるとどーも暗い。
笑いに逃げたいのはそのせいでもあるのかも知れません(笑)。

金茶の犬ね……。そんなネタもありましたね。
楽しませていただきました。

リンクの件ですが、ブログの方にも書きましたが、あかつきさまのご都合の良いようにご自由になさって下さい。

ではまた。お邪魔しました。

桔梗さま


こんばんは。
コメントありがとうございます。

> 他人様同士のコメントのやりとりに申し訳ありません。
> 非常に笑わせて頂きました。

いえいえ。
笑っていただけてなら幸いです。
(関西人の性みたいです)

やっぱり、リヒャルトは皆さん扱いづらいのですね。
なんとか明るいリヒャルトを書いてあげたい!

読んで頂いてありがとうございました。

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☆好きな漫画☆
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『風光る』『海街diary』
『あさきゆめみし』
『天才ファミリーカンパニー』
など

☆好きなラノベ&小説☆
『身代わり伯爵』
『彩雲国物語』
『伯爵と妖精』
『死神姫の再婚』『十二国記』
『銀河英雄伝説』
『嗤う伊右衛門』『魍魎の匣』
など

☆好きなアニメ☆
『マクロスシリーズ』
『夏目友人帳』『とらドラ』
『銀魂』『ヘタリア』
など

主に『身代わり伯爵』シリーズの二次創作を置いています。
よろしければ、どうぞゆっくりしていってくださいね。

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